「地道な努力を惜しまない勤勉な刑事たち、強固な組織力、最新の科学捜査技術……警察は今や、決して無能じゃない。有能すぎて困るくらいだ。現実問題として、灰色の脳細胞を唯一の武器とした昔ながらの名探偵たちの活躍する余地が、いったいどこにある。現代の都会にかのホームズ氏が出現したとしても、おおかた滑稽さのほうが目立つだろうね」
「それは云いすぎですよ。現代には現代なりのホームズが現われうるでしょう」
「そう。もちろんそうさ。恐らく彼は、最先端の法医学や鑑識科学の知識を山ほど引っさげて登場するんだ。そして可哀想なワトスン君に説明する。読者の知識がとうてい及びもつかないような、難解な専門用語や数式を羅列してね。あまりにも明白だよワトスン君、こんなことも知らないのかいワトスン君……」
有名ミステリを読もうシリーズ第二弾。個人的には、「僕にとって
「本格ミステリの最も
ミステリマニアでないと楽しめない、という評を見て身構えていたが、特にマニアというわけでもない*2身でも面白く読めた。オマージュ元であると思われる某古典もうろ覚えだったし。戸川安宣の解説ではその古典のある点でのカタルシスのなさへの不満と、それこそが本書の執筆動機ではないかという推測が書かれていて、割と納得できるといえばできるけれど、正直そこに関しては本書でも私はカタルシスが十分ではないと思ったので、本当にそれが動機なのだとしたら作者はこれで満足できるのか? やっぱり違うのでは……?とも思う。
(改訂が入っているからかもしれないが)文章も読みやすい。強烈な設定の割には登場人物のキャラクターはそこまで立っているわけでもないけれど、館や島といった舞台こそが主人公であると考えれば、これくらいが丁度良いのかもしれない。