ぜんぜん記録を付けていないので間違いなく漏れがある。
本
ケイト・ウィルヘルム『鳥の歌いまは絶え』
今年読んだ本で一冊だけ挙げるならこれ。三部構成で進展していくディストピアのビジョンも秀逸だけれど、ラストの主要登場人物二人の別れのシーンがあまりにも鮮烈だった。
小泉悠『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』/同『現代ロシアの軍事戦略』
東欧現代史の研究をするつもりで大学に入った日は遠い昔に思えるけれど、まったく、本当に嬉しくない理由でかの地域に関する本を多く読む一年になってしまった。中でも小泉氏の本は勉強になった。文章も上手いし。
ロシアの政治・軍事関連書は積んでいるものも多い(正直読んでいてしんどくなることもある)ので、来年も少しずつ崩していくことになるでしょう。願わくは、一刻も早く戦争が終わりますよう。
ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』
読んでいる間の楽しさはSFというよりむしろミステリに感じるそれだったと思う。
だいたいオチの予想が付いてしまったのは、昔「rewrite(key)を読んだ後に読むべきSF小説10選」的な記事(たしかはてなブログだったはずだがググっても見つからない)で挙げられていたから。
岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』
「三月の5日間」(小説のほう)をいまさら読んでとても良いと思ったのだけれど、その感じた良さを具体化するとほとんどロマンチシズムなので、この話にロマンを感じる自分の倫理観や批判精神を疑ってしまう
— さ (@saku_cakey) 2022年5月27日
文体、語りあってのものだとは思う/思いたいが
— さ (@saku_cakey) 2022年5月27日
(いつもこうやって感想を書いておいてほしかった)
映像
カンテミール・パラーゴフ『戦争と女の顔』
『戦争と女の顔』(この邦題を許容するかはともかく……)、たぶんすごい映画だし、ひとにも観て欲しいのだけれど、鑑賞体験として相当にハードなので、「男」である自分がそんな簡単に薦めて良いのか? という思いがある
— さ (@saku_cakey) 2022年7月30日
倫理的には露骨に最悪(本当に超最悪)な振舞いをしている登場人物への批判に、心情面でストッパーがかかってしまうの、体験としてしんどい
— さ (@saku_cakey) 2022年7月30日
今年観た映像作品で一番はこれ……だけれど、上に引いた鑑賞直後の感想から、消化しきれていない。観直したいと思う一方で、正直しんどいし怖い。
他にも『犬は歌わない』『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』『ドンバス』『バビ・ヤール』『ナワリヌイ』など、ロシア/ソ連がらみのドキュメンタリーやその手法を使った作品を多く観た。純粋な劇映画を観るのがしんどかった気もする。
バーバラ・ローデン『WANDA』
宣伝などから、主人公を「社会に適応できない人間」として描く作品だろうか、と先入観をもって映画館に行った。実際に観てみると、主人公個人についてはまあその通りとしても、対比として「社会」の側になるかと思われた男性のほうもまた、それにしては「社会に適応」できていなさすぎて、単なる図式的な範疇に留まらず、(良い意味で)納得に至らない作品だった。男性のああいった行為を見ると、同じような性自認を持つと思しき人間としては、どうしても怒りや、自己への不安・嫌悪に囚われてしまうけれども。
あと、ああいった人物として描かれた主人公が、ともあれ運転免許は持っているようで、また車の運転自体はなんとか事故も起こさず行えていた点に、アメリカ(の地方部?)っぽさを感じた。そういった地では、運転もまったくできない、できないと見做される人はどうなるのだろうか。
展覧会とか
「工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな」(平塚美術館)がとても良かった。身体から余計な力が抜ける感があった。ファンになりました。
他に印象に残っているのは以下のあたり。
- 「アレック・ソス Gathered Leaves」(神奈川県立近代美術館 葉山館)
- 「生誕100年 ドナルド・キーン展―日本文化へのひとすじの道」(神奈川近代文学館)
- 「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」(国立西洋美術館)
- 「ゲルハルト・リヒター展」(東京国立近代美術館)
- 「ヴァロットン―黒と白」(三菱一号館美術館)
文筆
発表は『ねむらない樹』9号の渡辺松男特集へ寄稿したエッセイ(「長い・遅い・あやしい」)のみ。短歌作品は発表ゼロで賞にも出せず。
短歌のメモを見返すと、上半期は歌自体の数は(当者比なら)それなりだが、職場が変わってテレワークになったあたりから激減している。私の場合歌が一番できるのは歩いているときなので、必然ではある。来年はもっと外に出ましょう。