良い旅を

綾辻行人『十角館の殺人 <新装改訂版> 』

「地道な努力を惜しまない勤勉な刑事たち、強固な組織力、最新の科学捜査技術……警察は今や、決して無能じゃない。有能すぎて困るくらいだ。現実問題として、灰色の脳細胞を唯一の武器とした昔ながらの名探偵たちの活躍する余地が、いったいどこにある。現代の都会にかのホームズ氏が出現したとしても、おおかた滑稽さのほうが目立つだろうね」
「それは云いすぎですよ。現代には現代なりのホームズが現われうるでしょう」
「そう。もちろんそうさ。恐らく彼は、最先端の法医学や鑑識科学の知識を山ほど引っさげて登場するんだ。そして可哀想なワトスン君に説明する。読者の知識がとうてい及びもつかないような、難解な専門用語や数式を羅列してね。あまりにも明白だよワトスン君、こんなことも知らないのかいワトスン君……」

 有名ミステリを読もうシリーズ第二弾。個人的には、「僕にとって推理小説ミステリとは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ」に始まるかの有名な台詞で挙げられている「“社会派”式のリアリズム」はまだ許容範囲でも、「最先端の法医学や鑑識科学の知識」で謎を解決するのはちょっと勘弁してほしいと感じる。


本格ミステリの最も現代的﹅﹅﹅なテーマは“嵐の山荘”である」という台詞には、傍点が振られていることからしてある種の諧謔が含まれているだろうけれど(そもそもメタに考えれば、古典ミステリ作家の名で呼び合うミス研会員たちという存在自体が既にジョークに等しい)、「嵐の山荘」、ひいてはその変奏であり、まさにこの作品も当てはまる「孤島もの」は、元々あまりに「現代的」でなかったがゆえに、実際に発表から30年以上が過ぎてもなお現代的だし、おそらく人間の身体機能そのものが変質しない限りそうであり続けるだろう。*1
 ミステリマニアでないと楽しめない、という評を見て身構えていたが、特にマニアというわけでもない*2身でも面白く読めた。オマージュ元であると思われる某古典もうろ覚えだったし。戸川安宣の解説ではその古典のある点でのカタルシスのなさへの不満と、それこそが本書の執筆動機ではないかという推測が書かれていて、割と納得できるといえばできるけれど、正直そこに関しては本書でも私はカタルシスが十分ではないと思ったので、本当にそれが動機なのだとしたら作者はこれで満足できるのか? やっぱり違うのでは……?とも思う。
 (改訂が入っているからかもしれないが)文章も読みやすい。強烈な設定の割には登場人物のキャラクターはそこまで立っているわけでもないけれど、館や島といった舞台こそが主人公であると考えれば、これくらいが丁度良いのかもしれない。

*1:もっとも、現代を舞台にそれらを書くならば、外部との連絡手段としての携帯電話・インターネットが使えない理由付けは必要だろうけれど

*2:作中でニックネームとして名が使われているミステリ作家のうち、一作でも読んだことがあるのは3人だけ

2019シーズンJ2リーグ第27節 横浜FC vs 水戸

 タダ券を手に入れたので、敵情視察と言い訳をして。いや、南アフリカワールドカップの後にマリノスサポーターになった私には、個人的な敵対意識はほぼないというのが率直なところだけれど。
 横浜FCの主催試合を観るのは2度目。前回はプレーオフ初年度の最終節で、それは2012年のことだから、もう7年近く前ということになる。ちょっと信じがたい。ついでに2012年のJ2について調べたら、町田と松本が昇格してきて22クラブになった初年度だったり、その町田が今のところ唯一のJFL降格の憂き目にあっていたりと隔世の感がある。


 開始直前に現地着。さすがに一銭も落とさないのも悪いかと思いかき氷を買おうとするも、予想以上に待つことになりキックオフから10分近く経ってようやくスタンドへ。バックスタンドの一番アウェイ寄りのゾーンに着席。区画が狭めとはいえアウェイゴール裏はほぼ埋まっていてなかなかの雰囲気。
 横浜FCはいろいろな意味で見覚えのある選手が多い。田代と武田英二郎が30代というのもびっくり。その田代と松井大輔のダブルボランチは違和感がすごい。目の前で積極的に仕掛ける37番をこれが斉藤光毅かあ、と思っていたが、途中で違う選手と気付く。だっていかにも2種登録の選手が着けそうな背番号だし……。その選手、特別指定らしい松尾佑介は背格好も髪型も本物の斉藤光毅(23番)とそっくりで、正体が分かってからもしばしば混乱した。
 前半は横浜FCがほぼ一方的に押していたけれど点は入らず。生で観るイバは相当な迫力だったが、今日はやや身体が重そうな感じも。


 考えてみれば三ッ沢でサッカーを観るのもかなり久しぶりだ。日産の2階も俯瞰でピッチ全体が観られて悪くない、なんて言っているけれど、三ッ沢に来るとやっぱりそれはただの強がりだと思わざるを得ない。今日は客席もかなり埋まっていて非常に良い雰囲気。
 とはいえ「サッカーが観やすい」以外にはあまり良いところがないというのも変わっておらず*1、サッカーにそれほど関心のあるわけではない友人を誘うならやっぱり日産が無難かな、という感じ。日産のことを常々「サッカーが致命的に観にくいこと以外は最高のスタジアム」と言っているが、良いとこ取りで合体してくれんものかな。


 後半はややオープンな展開に。黒川と木村(北九州の頃からなんとなく好き。ジュニアユースから川崎だったことを初めて知った)がボールを触る機会が増えると水戸にもチャンスが増えてくる。水戸が敵陣でセットプレーを取るとゴール前に左SBの志知が入る。それなりに高さはありそうだけれど*2、とはいえ大型というわけでもないSBがそこに入るのは珍しい気がする。空中戦強いのかな。
 横浜FCも磐田時代からなんとなく好きな松浦を投入。相変わらずのドリブルで仕掛けていたが、効果的だったかは微妙。松浦・松尾・斉藤の2列目は素人目にもちょっと無理のある気がした。そしてその3人よりも激しく仕掛けてくる北爪はどこがSBなのかさっぱりわからない。そうこうしているうちに横浜FCのミスから小川航基が決定機を迎えるも枠外。この試合の小川の見せ場はこの場面くらい。水戸がチームとして上手くいっている時間が限られていたとはいえ、ボールにはほとんど絡めていなかった。
 小川については昔から、あくまで「アマチュア(育成年代)レベルの好選手」であってプロのトップレベルではその下馬評ほどには通用しないのでは、という気がしてならず*3、しかし神奈川県出身者だし応援していないわけではないので頑張って欲しい。でもとりあえず「万能型」ではないと思う。ゴール以外はおまけの古典的ストライカーと考えたほうが本人のためなんじゃないか。


 試合終盤、場内のざわつきの理由を探すと背番号46がライン際にいた。投入されて上がるこの日一番の歓声のなか、私は選手交代に対する儀礼として手を叩くだけ。
 2010年に私が応援するクラブとして横浜FCではなくマリノスを選んだ理由の一つには間違いなく中村俊輔の存在があって、しかし今の私の彼に対する関心は、たぶんスタンドを埋める人々のなかでも下から数えたほうが早い。「好きの反対は無関心」という言葉は好きではない(無関心がどうこうというより、そこにある「嫌よ嫌よも好きのうち」的発想がそれこそ嫌なので)けれど、個人的な意識はともかく間違いなくライバル、宿敵として定義されているクラブへの移籍報道に何も感じなかったときは、その言葉にも一理があることを認めざるを得なかった。自分でも本当にびっくりするほど彼に対する関心がなくなってしまった理由は、列挙しようと思えばいろいろと挙げられるし、しかしそのどれも違う気もする。
 後半ATの激しい攻め合いがこのゲームで一番面白かったかもしれない。俊輔にもFKで見せ場はあって、まあ良かったのではないか。結果はスコアレスドローだったが楽しめるゲームだった。


 退場時、「横浜ダービー絶対勝利」という横断幕が張られ、アジテーションがなされているゲート付近をそそくさと通り過ぎる。歩道橋に至っても人で溢れていて、「帰りに困るクラブになっちゃうなんてな」という嬉しそうな会話が聞こえたのが印象的だった。
 新横浜通りから少し入ったところで、公式グッズではないと思われるシャツを着た人が、迎車表示を出したタクシーの窓を殴りながら怒鳴り散らしていた。まあどこにでもそういう人はいるものだけれど……。

*1:私はサッカー場ではただサッカーを観ていれば満足なので、「そういう視点」を意図的にインストールするならば、というところだが

*2:177cmらしい

*3:ちなみに競技は違えど同様のことをもっとも強く思っているのがロッテの小島和哉で、しかし先日先発で好投していたので私の見る目が危うい

自信

 明かりも人も見えない夜の闇を歩いていけるのは、死者や幽霊や妖怪がいないと思っているからじゃない。その証拠に、今だってまったく怖くないわけじゃないし。それでも耐えられるのは、かれらがいたとしても私に危害を加えることはできない、お互いが相手を知覚できるなら、むしろかれらのほうが私に従うはずだ、そうであるべきだ、という自信があるからだ。この自信、私にあるべき力が実際に通用するものなのか確かめる機会にはいまだ恵まれていないけれど、考えてみればいまのアルバイト、死者たちと同じ建物で夜を明かすことでお金をもらう仕事を行う上ではすでに大いなる力を発揮しているともいえて、この自信をもたらす思想の原点はトールキン十二国記かそれとも他のファンタジーか、あるいはあまり読んだ記憶はないけれどホラーの類だろうか、ともかく本たちと作者たちに感謝する。いやどの作者もこんな怪しい選民思想の土台にされるなんで想像もしていなかっただろうけれど。


 けれど私にも暗闇で姿の見えないものから必死に逃げた経験がないわけではなくて、しかもその暗闇は今よりずっと浅い、まだ薄明かりが残る釧路湿原だった。14時半ごろ最寄駅に降り立った私にとっての帰りの列車(電車ではない)は4時間待ちで、道東の秋は16時過ぎともなればもう日が暮れてしまう。駅の近くの展望台から景色をひととおり楽しんだあとで、どうせなら満天の星空でも観てやるか、一緒に降りてここまできた団体客はこのあたりにとどまるだろうから反対側で、と威勢良く出発して、たぶん2、3km歩いたさきの沼のまわりをぶらぶらしていたところまでは良かったが、あたりが暗くなってくると道路わき、沼と反対側の木々の奥からの物音がやけに気になってくる。もしかしてヒグマじゃないか。熊避けになるようなものなんて持っていないし、ヒグマが私に従ってくれる気もあんまりしない。早足で来た道を引き返す。沼をはなれると両側が林になる。左右両耳に届くすべての物音がヒグマに聴こえる。もう限界だ。走り出す。追いかけてくる無数の足音のほとんどは自分のそれが木々に反響したものだと分かるけれど、そのなかの一つもヒグマのものでないとどうして言える? 息が切れて走るのをやめると足音も消えた。今回は。次回もそうなるとどうして言える?
 アスファルトの道と鉄の道が接したところで、本来人間が走るべきではないほうに乗り入れる。バラストの舗装は何ヶ月も前から穴の空いている靴で走るには痛すぎるけれど、姿の見えない怪物が潜む魔界が左右にあるよりはマシだし、列車はヒグマよりもはるかに勝ち目はないけれど、なにせあと2時間は私の眼前には現れない。


 そんなことを思い出しながら戻ってきた駅は釧路湿原駅ではなく横川駅で、列車(電車だ)を待つのもたった1時間でいい。たぶん15分ぶりくらいに見た明かりは直近と同じ駅のもので、改札の脇に貼ってある、さっきは見えなかったポスターに、「野生動物の出没に注意してください」の文字を見つける。両側を木々にはさまれたさっきの道で、私の足音以外に聞こえた音はなんだったかな。死者や幽霊や妖怪だと思いこもうとしていたんだけど。ヒグマということはないと思うけれど、本州の動物たちは私に従ってくれるだろうか。

平成アイマス楽曲大賞(4)総合部門+おまけ

ch.nicovideo.jp


hanasikotoba.hatenablog.com


hanasikotoba.hatenablog.com


hanasikotoba.hatenablog.com



〆切当日。ちゃちゃっと。

投票リスト


A210 CRIMSON LOVERS
C230 クレイジークレイジー
D103 SUN♡FLOWER
E006 Marionetteは眠らない
E410 brave HARMONY
E601 アイル
E602 Flooding
K004-02 Kosmos, Cosmos
K010-04 Mythmaker
L012-01 Twilight Sky
L028-02 Frozen Tears
L030-02 サイキック!ぱーりーないと☆
L031-02 銀河図書館
M008-03 プリンセス・アラモード
M021-03 Oli Oli DISCO


無難にオリジナル2部門の3pt以上すべて+2ptからいくつか。

アイドル別ポイントランキング

 
 私がそれなりに聴いている音源(フル)で歌唱しているアイドル全員にポイント加算*1。ただし『FairyTaleじゃいられない』は現状アイドルとしては5人の音源しか世に出ていないけれど、あれはあくまで選抜メンバーであることを鑑みた独断と私情により13人に加算する*2
 作詞家と作曲家のランキングも集計してみたけれど、ばらけすぎてあまり面白くなかったので割愛。なお作詞家の1位はMCTC、作曲家1位はTaku Inoueでした。


pt 曲数
志希 12 5
静香 10 6
10 5
千早 9 5
ジュリア 9 5
加蓮 9 3
美希 8 6
麗花 8 4
伊吹翼 7 5
春香 7 4
伊織 7 4
瑞希 7 4
未央 7 3
あずさ 6 4
北沢志保 6 3
6 3
ユッコ 6 2

全体振り返り

 1位はまあ知ってた。ブレハとFTじゃいの両方に2ptを入れた関係でミリオンの青っぽい人たちが上位に来るのも予想できたけれど、ゲッサン補正が乗りまくりの静香に歩が並ぶとはびっくり。『Flyers!!!』のソロめっちゃ好きです。
 最初の担当の加蓮は同率4位、ただしそのなかでは曲数は最少。好きな曲はたくさんあるけれど、ユニット曲がミリオン寄りになったことの影響がここにも出ている。元々はFrozen Tearsをソロの5pt枠にするつもりだったので、そのままなら2位だったのだが。ASは千早美希のワンツーフィニッシュというのもまあ我ながら納得。
 ミリオンは担当という感覚の人はまだいないけれど、現状それに最も近そうな琴葉がまさかの0pt。ギブミーメタファーが投票対象に入っていれば……。担当を自称することは永遠になさそうだがそのありようについて考えることは無限にできそうな北沢志保が6pt。


 この一ヶ月、頭の片隅では常にこの企画について考えていた気がする。語りたがり屋なので票を入れる曲を絞り込む前にコメントを考えてしまっていて、結局その曲に投票することはなくお蔵入りすることもあったし、票を入れるとしても長すぎたり自意識が溢れすぎていたりで結局ここに吐き出すくらいしかできないものが多々あった。
 とにもかくにも多くの曲を聴きなおすよい機会になったし、改めて自分の好きな曲の傾向が見えて興味深かったです(一番はっきりした傾向は「直近のライブなどに影響されて好きな曲がコロコロ変わる」だったかもしれませんが……)。
 運営の白山直人Pに改めて感謝を。結果も楽しみにしております。
 

 

*1:ブレハの紬、MUSIC♪の歌織・紗代子・可奈、NBのありすは加算。シリウスの志保は加算しない

*2:ユニット名「フェアリースターズ」に忠実に従うのならばASのFa4人も含めるべきなのかもしれないが、現状ではさすがに不適当かなと

平成アイマス楽曲大賞(3)カバー曲部門

ch.nicovideo.jp


hanasikotoba.hatenablog.com


hanasikotoba.hatenablog.com



もたもたしてたら〆切間近になってしまった。まだ投票していない方はお早めに。


投票リスト

5pt(1曲)
U028 蛍火



3pt(3曲)
S007-08 恋とマシンガン
U015 ラブリー
U038 女の子は誰でも



1pt(8曲)
S010-08 リフレクティア
R010 ゆりゆららららゆるゆり大事件
T002 エンジェル ドリーム
U010-01 気まぐれロマンティック
U021 誰より好きなのに
U027 君の知らない物語
U030 じょいふる
U041 スターラブレイション

コメント

5pt曲


蛍火


 担当枠。最初はオリジナル曲だと思ってた。シンデレラのソロ曲数で加蓮にこの手のオリジナル曲をぶち込むのは難しいだろうし(未完成の歴史のソロリミックスは来たけれど)、この曲をカバーしてくれて本当に良かったと思う。
 カラオケに一時期入っていたけれど一回歌っただけで消えてしまって残念。


3pt曲


恋とマシンガン


 これを伊織にカバーさせようという発想がどこから出てきたのか想像もつかないし原曲とはかけ離れているけれど、奇跡的なはまり具合。後から原曲聴いた人はびっくりするんじゃないか。



ラブリー


 伊織の『恋とマシンガン』ほどの魔球感はないけれど、この曲をこれだけかわいく楽しそうに歌われたら単純に強い。



女の子は誰でも


 ド定番。原曲のアンニュイさと、志希の(実は)キュート要素のバランスが絶妙。


1pt曲


リフレクティア


 『True Tears』のオタクなので……。原曲よりビブラート盛ってくるキャラカバーというのも不思議だけれどこれはこれで好きです。



ゆりゆららららゆるゆり大事件


 明らかに特定の二次元キャラクターのために書かれた曲を他のコンテンツのキャラクターがカバーする、という構図がまず面白い。調べたらバンドリでもカバーされてるのか。
 セリフもネタまみれ。「千早せんぱーい」「高槻さん」の天丼がツボ。



エンジェルドリーム


 えんじぇうこーりゅべーりかいんどゅりー。李衣菜のソロもキュート100%で良いです。



気まぐれロマンティック


 ソロで『はにかみdays』を落としたことをこれで許してほしい、というようなこちらも王道アイドルソング。いや原曲はアイドルソングじゃないはずなんだが……。
 いきものがかりが好きか、と問われれば陰気オタクとしては(神奈川県出身ということを勘案したとしても)やっぱり首を縦には振りがたいけれど、二次元アイドルがカバーする曲としての魅力は否定できない。



誰より好きなのに


 アレンジの力の入りっぷりが他のカバー曲と一線を画している。歌の感情の込め方も素敵。



君の知らない物語


 いい意味でカラオケ感がすごい。仲間うちでは一番歌が上手いと言われている高校生(失礼?)が十八番を歌っている感じ。どういうディレクションだったのか気になる。



じょいふる


 ユッコの何もかもどうでもよくなってくる歌い方が好き。楽しい。



スターラブレイション


 上のほうでも似たようなことを言った気がするけれど、かわいく楽しそうに歌ってほしい曲を唯に歌わせたらそりゃ強いよね。


振り返り


 ただ原曲が好きなものばかりになりそうで困った。原曲のほうが明確に好きなもの(オケ含む)や、好きな角度がそこまで変わらないものから落としていく方針に。これで雪歩がだいぶ割を食った気がする。正統派カバーの泣きどころと言うべきか……。
 この枠数だとフルを聴いてない曲を入れる余裕はなかった。デレステカバーは早く音源出してください。

平成アイマス楽曲大賞(2)ソロ曲部門

ch.nicovideo.jp


hanasikotoba.hatenablog.com


投票リスト

5pt(1曲)
L030-02 サイキック!ぱーりーないと☆


3pt(3曲)
L028-02 Frozen Tears
L031-02 銀河図書館
M021-03 Oli Oli DISCO


2pt(6曲)
K002-06 細氷
K004-02 Kosmos, Cosmos
K010-04 Mythmaker
L012-01 Twilight Sky
L038-02 PROUST EFFECT
M008-03 プリンセス・アラモード



1pt(15曲)
K003-10 追憶のサンドグラス
K011-04 黎明スターライン
L021-02 マイ・スイート・ハネムー
L026-02 PANDEMIC ALONE
L034-01 Hotel Moonside
L038-01 秘密のトワレ
L041   Radio Happy
L042   恋色エナジー
L050   Last Kiss
M002-02 Catch my dream
M003-03 ロケットスター☆
M014-03 Only One Second
M020-03 CAT CROSSING
M026-03 To...
M035-01 FIND YOUR WIND!

コメント

5pt曲


サイキック!ぱーりーないと☆(坂井竜二/山崎真吾)


 愉快で変で乱雑でめちゃくちゃなのにあまりにもエモいし最高に泣ける曲で、けれども歌っている堀裕子さん本人はなぜこれが泣ける曲なのか分かっていなさそうで、でもそういう人が歌うからこそ良いのだと思う。
 「わたしの願いは世界中驚きと愛で満たしたい」という、ややギャップのあるものが並列されているフレーズが本当に素晴らしい。「世界を愛で満たす」だけだとありがちな、誰にでも言えそうなフレーズだけれども、そこに「驚き」という世界を満たすものとしては意外な、独創的な言葉が加わることで、ああこの人は「愛」のほうも自分で考えて本気で言っているんだ、ということが分かってしまう。「世界中を驚きで満たす」は「世界を驚かせる」ともなにか決定的に違うし、そこに愛まで加わるとなんかもうすごい。
 たとえば「驚き」と母音が同じでも、「世界中喜びと愛で満たしたい」ならぜんぜん感動しなかったと思う。それは「その人だけの言葉」ではないから。ありがちなフレーズをずらすことで「その人だけの言葉」と思わせる……というのは詩作においてはそれこそありがちなテクニックでもあるけれど、ここまで完璧にハマっているのはなかなか見たことがない。
 ラスサビはアイマス世界におけるアイドル堀裕子のライブを幻視し、自分もその満場を埋める観客の一人であるように思ってしまう。サイキックじゃんぷしながらこの時間が永遠に終わらないように願っている何万人かの一人に。
 ナゴヤドームは極論これとFrozen Tearsを聴きに行ったようなもので、ラスサビは涙声でコールしながらペンラ振ってた。一度で良いからサイキックじゃんぷしまくれるライブに行きたい……。



Frozen Tears(磯谷佳江/小野貴光/玉木千尋


 担当枠。「アイドルの曲」でも「アイドル北条加蓮の曲」でもなく「北条加蓮の曲」という感じのこの手の曲(他には『絵本』とか)にどう向き合ってよいのかというのは正直戸惑うところもあるのだけれど、ナゴドで聴きながら号泣してたし、まあそれが答えでよいかな、と。



銀河図書館(烏屋茶房/同)


 あ、この展開People In The Boxで聴いたやつだ! いまいち距離感がつかめなかった鷺沢文香というアイドルのファンになれた曲。
 「めでたしめでたし」で終わらないところがなにより良い。インストも最高。



Oli Oli DISCO(真崎エリカShinnosuke


 キラキラしたイントロ→ちょっと停滞するようなAメロ→動き出すBメロ→解放されるサビ、という流れと、それに沿うにように移り変わっていく歌詞が好き。
 ミリオンはまだそこまで思い入れないし泣くことはないだろうな、と思っていたけれども、6th福岡1日目で合唱しながら少し涙ぐんでしまった。


2pt曲


細氷(貝田由里子/椎名豪)

 
 ずーっと高音のサビがすごい。「もがきながら歩きだすの」とはこのサビを歌うことの暗喩か? と疑うくらい。いや歌はいたって安定しているけれど。



Kosmos, Cosmos(遠藤フビト/内田哲也)


 夜中に宇宙番組を観ていると、あるいは*1旅行先やフェリーの上から一人で星空を眺めていると、自分の卑小さ、無力さを感じてこわくてたまらなくなって、ひとに隣にいてほしくなる。一方で私は人類が生存するためには宇宙に進出するしかないと思っているし、叶うならば自分も宇宙に行けたらと望んでいる。
 相反するようでも表裏一体のようでもある私の宇宙への感情が両方とも入っている曲。「少し怖いけどキミを信じてる/きっとこのままずっといけるよ」、なんてロマンチックなんだろう。
 ゼロ年代から常にそのとき使っている音楽プレイヤーに入っていたので、実は聴いている期間だとアイマス曲で一番長いかもしれない。*2アレンジはMA版のほうが浮遊感があって好きだけれど、MA3版の終盤の展開も捨てがたい。



Mythmaker(LindaAI-CUE/同)


 超絶格好良い。イントロからヤバい。6th福岡初日(LV)の開始0.5秒くらいで叫んでしまったことは本当に反省しています。6thに関してはこの記事が面白かったです。
kokukoku.hatenablog.com


 そもそもMythmakerという単語が格好良い。イノタクのリミックス*3も当然のように良いけれど、この曲に限ってはやっぱり原曲が強すぎる。



Twilight Sky(渡辺量/同)


 Cメロからラスサビにかけて、ゆっくりと夜が明けてゆくような音と、そこに乗る歌詞が最高。好きなポイントは語りつくせないけれど、「明けゆく東の空で/目覚める夢の続きが/たとえ違ったとしても 君の歌聞かせて」が一番かな。渡辺量さんは『Dazzling World』が初めての作詞だそうだし、その後もあまり多くの歌詞を書いているわけではないけれど、この平易な言葉で印象に残る歌詞を書く技術をどのように身につけたのか気になっている。
 「巧く歌うんじゃなくて /心を込めて歌うよ」という歌詞は李衣菜というキャラクターのイメージを塗り替えてしまったんじゃないかという気がする。*4普段いくらトンチキことを言っていてもこれを聴いてしまったらもうただのネタキャラ扱いはできない……。



PROUST EFFECT(北谷光浩/同)
 

 プログレ? ポストロック? よく分からないけれど変態変拍子は最高。2番後の間奏が一番訳分からなくて素晴らしい。6thで無理やりペンラ振ろうとしたら指揮者みたいな動きになってしまった。ちょっとSchool Food Punishmentっぽい気もする。そういえばSFPを知ったのもアイマスのMADだったな。
 完全に宣伝ですが、下の雑誌にこの曲を無限に聴きながら書いた(+一応元ネタ? のプルースト失われた時を求めて*5)短歌連作を寄稿したのでよかったら買ってください。

ねむらない樹vol.1 短歌ムック『ねむらない樹』

ねむらない樹vol.1 短歌ムック『ねむらない樹』



プリンセス・アラモード(松井洋平松井洋平・AstroNoteS/AstroNoteS)

 
 この曲そのものがなんでもありのわんだーらんど、というような多彩な展開に華やかな音。歌い方も好き。
 「夢の世界は終わったりしないのです」「あなたといるといつでもわんだーらんどとかこういうのに弱いんだって! 自分が何をしでかしているか分かっている『サイキック!ぱーりーないと☆』、という感も少しする。ライブで聴いたら泣くだろうな。


1pt曲

追憶のサンドグラス(ZAQ高田暁


 美希ってここまでソウルフルな歌い方をするの? という驚き。近いのは『マリオネットの恋』なのだろうけれど、それよりも更に剥き出しな感じ。しかし超かっこいい。イントロの音が増えるところ好き。

 

黎明スターライン(LindaAI-CUE/増渕裕二)


 宇宙の浮遊感、というよりは宇宙への推進力を感じる。キーボードとドラム好き。



マイ・スイート・ハネムーン’(滝澤俊輔/同)


 「世界中がエキストラ」というパンチラインに尽きる。滝澤俊輔は作詞もすごかった。



PANDEMIC ALONE(ミズノゲンキ睦月周平


 めっちゃドコドコしてて最高。
 間奏~Cメロラスサビ入りの流れがたまらない。「星輝子の歌うこの調子の曲の歌詞」を「どうだい ともにGo to hell/楽しもうぜ」に帰着させたミズノゲンキはさすが。



Hotel Moonside(MCTC/Taku Inoue)


 イノタク枠であり担当枠。最近は烏屋茶房リミックス*6ばかり聴いている気がするけれど、原曲も当然名曲です。
 やっぱり歌詞が好き。「月の丘の裏側で/誰も来やしないから」とか「流れ星を捕まえて この足に縛ってよ」とか。宇宙っぽい曲で「環状線」なんて語を出して銀河鉄道っぽいイメージを持たせたところで、「天秤座行きのバスでキス」というのもちょっとした裏切りのようでお洒落。



秘密のトワレ(ササキトモコ/同)


 『PROUST EFFECT』を選んだしこちらはいいかな……と思ったが流石にそうはいかなかった。あまり選べてないけれどササキトモコ大好きです。



Radio Happy(MCTC/Taku Inoue)


 「大好きな君に届けたいよ!」



恋色エナジーミズノゲンキ睦月周平


 中野有香の「エナジー」という要素にフォーカスして王道アイドルソングに仕立てた手腕に拍手。



Last Kiss(渡部紫緒/坂部剛


 初めて聴いた日はそのまま20回くらいは聴いたかもしれない(Last Kissで検索しようとしたら「鈴木みのり」がトップにサジェストされて笑った)。
 Cメロはとってもきれいだし、それ以降の流れはもう完璧。
 


Catch my dream(Mine/中土智博)


 ゲッサンのオタクなので(通算六度目)。6th福岡2日目で号泣した。
 Bメロが一番の好きポイント。期待感が高まっていくようなメロディーに、「この声 この歌で 何ができるのだろう」が最上静香……! という感じ。



ロケットスター☆(真崎エリカ本多友紀

 
 疾走感と無敵感。めっちゃ楽しい、聴いているだけで身体がうずうずしてくる。細氷とはまた違う高音のやばさ。
 翼がサッカー選手だったらスピードにまかせてぶち抜く戦術兵器系ドリブラーだと思っているけれど、たぶんこの曲の影響が大。左サイドでボールを受けたらそのまま大外をぶち抜いてからのクロスでアシストを量産する*7



Only One Second(松井洋平石谷桂亮/遠藤直弥・石谷桂亮)


 アツい。この歌詞に説得力を持たせる歌唱に兜を脱ぎました。
 私は最初に聴いた紗代子のソロがこれだったけれど、以前から追っていた人には感慨深かったのだろうなと思う。



CAT CROSSING(中村彼方中野ゆう/EFFY)


 激しいサウンドに叩きつけるような、挑戦するような歌い方、そしてそこに乗るのが弱さを自覚しながらそれでも強くあろうとする歌詞、ときたら好きにならずにいられない。その危ういバランスをとるのにピアノが効いている。
 この曲調でラスサビ2回繰り返すのはずるいでしょう……。しかも「つま先の野生は」で言いさすだなんて。



To...(KOH/同)


 『水中キャンディ』はちょっと毛色が違うとして、『dear…』と『To…』という2つのラブソングはどちらがより好きかが割とその人の欲望のかたちを反映する気がする。それはサウンド面を含めて、結局は「love song 感じていたいの/ずっと見つめていたいの」と「この恋が本物と感じて欲しいから/その一瞬は嘘ついていてもいいから」の差なのかもしれない。私は永遠よりも一瞬を永遠と誤認する方が好きなので後者派です。あと間奏がキラキラしててエモい。



FIND YOUR WIND!(松井洋平/中土智博)


 飛べそうなくらいの解放感と爽快さ。
 「走り出したときに感じる風を自由っていうんだよ!」はもちろんとして、「1秒先のことなんて知らないよって言ってたのに/どうして君のその瞳、明日みてるの?」が刺さる。ちょっと耳が痛い。


振り返り


 30曲くらいまでは比較的早く(ユニット曲比)絞れたけれどそこからがめちゃくちゃ大変だった。先にコメントを考えていたのに結局漏れてしまった曲もある。
 シンデレラ2周目強し。これ以外にも本当に良い曲が多いので知名度が低そうなのが悲しい。
 ユニットからそうだったけれども妙に宇宙っぽい曲が多い。アイマスは宇宙。

*1:本来こちらが先に来るのが普通であって、転倒しているのは分かる

*2:回数だと無限リピートしたことのある何曲かには負けそうだが

*3:『The Remixes Collection THE IDOLM@STER TO D@NCE TO)』収録

*4:当時を知っているわけではないから推測に過ぎないけれど

*5:集英社の全13巻のうち2巻くらいしか読んでいないが……。

*6:Hotel Moonside -Take me away from Metropolis Remix-」、『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS TO D@NCE TO』収録

*7:なおこの曲だけだとパターンがそれしかないことがバレてコーナーフラッグを背に守られるので、Believe My Change!あたりで右足を使えるようになってほしい

島田荘司『占星術殺人事件』


 改訂完全版。図書館でノベルスの背表紙と目が合ったので。タイトルはけっこうな言われようのようだけれど、個人的には素晴らしいと思う。妖しい、得体のしれない香りがして、これしかない、と思う。もっとも風格のようなものを感じたのは歴史的な作品だと言われていることくらいは知っていたからであって、そうでなければありふれたタイトルと感じていたのかもしれないが。


 結論から言うと、十分に期待以上に面白かった。日本ミステリー史に残る傑作、という風評の時点で高かったハードルを、40年前の未解決事件、しかも戦中戦後の混乱で忘れられたなどの類ではなくめちゃくちゃ注目されていたもの、という設定で更に上げられていたはずなのだけれど。タイトルに偽りなしの怪事件に、ハードルを乗り越える解決。
 生者は(たぶん)自分しかいない深夜の葬儀場という、いかに有名作とはいえなかなかこの環境で読んだ人はいないのではないかという状況にあって、最初のほうは正直怖かったけれど、いつの間にか作品に夢中になっていたようでまるで気にならなくなった。日頃ほぼネタバレというものを気にしないけれど、この作品に関しては知らずに読めて良かったな、と素直に思う。


 平吉の「小説」(冒頭の謎文書で読者を振り落としてくる作品はトールキニストとして無条件に応援したい)は、いかにも「戦前のいろいろ考えているけれど別に文章がうまいわけではない人の手記」感が出ていて妙なリアリティを感じた。なにより面白かったのは対話だけで進む推理だ。ページじゅう鉤括弧だらけ。短篇ならまだしもこれが100ページ以上も続くというのは見たことがないけれど、テンポの良さがだんだん癖になってくる。
 それだけに京都パートはあまり好意的には読めない。京都愛好家の間では四条河原町京都タワーの次に評判が悪い、という台詞には笑ったが(今となってはどちらも「今更文句を言っても仕方がない」枠に入っている気がする)。一度目の読者への挑戦を読んで正直ちょっと文句を言いたくなった。その先はまさに怒濤の展開だったので満足したけれど。


 推理にしろ雑談要素にしろ、決めつけが激しいのは気になった。「実の娘を殺さないだろう」みたいな言説。別に解決には関係しないとはいえ、いやこんなめちゃくちゃな事件を前にしてそんな道徳観を持ち出されても、とか、そもそも俗世間を超越した探偵がそんなつまんないこと言うか? とか突っ込みたくなる。
 随所に見られるデビュー作らしい(という言い方もいかにも偏見の産物だが)エナジーや感傷も読みどころだと思う。綱島という地名をおそらくはじめてフィクションに見出せたこともポイントが高かった。